1.京町家の保全と再生

  京町家は、京都の魅力的で個性的な都市空間を象徴するものとして、多くの市民に愛されるとともに、多くの人を京都に引きつける大きな力となっています。
  京町家そのものが存在感を持っており、これと調和する新しい都市空間を形成することで洗練された、落ち着いたまちなみ景観を形成していくことができます。

  京町家の現代における役割として、次の5つの要素が期待できます。

○21世紀の新たな都市居住文化の創造
  町家に見られる京都が蓄積してきた職住共存の都市居住文化は、新しい都市居住のあり方を創造するときの参考になるものであり、原点として期待されます。

○生活文化の体験など都市型観光の担い手
  京町家の形やそこでの暮らしや商いなどは、京都が蓄積してきた都市居住文化を体験するアーバンツーリズムの資源として活用が期待できます。

○新事業を創出する施設
  京町家は京都の歴史・くらしの文化、また周辺地域とのかかわりを身近に感じることができる資源として、様々な事業で活用できる可能性を秘めています。

○環境共生、循環型社会の牽引車
  自然素材を使用し、材料の寸法などが一定の基準に基づいて精算されている京町家は、環境に配慮した住宅として参考になる要素がたくさんあります。

○京都のまちづくりへの参加意欲の促進
  多くの人の関心を引きつける京町家は、その保全・再生を考えることが、多くの人が京都のまちづくりを考え、まちづくり活動に参加する契機となり得ます。

改修の事例
改修の事例

 センターでは、地域の資源として大切に受け継がれてきた京町家の保全・再生を通じ、暮らしの息づく、活力あるまちづくりを進めていくための取組を行っています。

2.袋路の再生

袋路の再生

  京都市の都心部には約3千か所袋路(幅員4m未満の行き止まり通路)があり、これらの袋路に面して約1万6千戸の住宅があると推定されています。
  これらの住宅の多くは、法規制など様々な要因により、一般住宅のように所有者などの意向によって個々に建て替えることが困難なため、多くの住宅は老朽化し、居住者は高齢化しています。
  このため、京都市では都心部での人口回復、高齢化対策、コミュニティー再生による都心活性化の観点から、平成3年度から袋路の再生に取り組んできました。
  その袋路再生の第1号として、平成10年に玉屋・山三小路で共同住宅が竣工されました。これは2人の地権者の共同事業として、多くの関係者の理解と協力を得て、既存の複数の木造住宅を除去し、新しい共同住宅に建て替えたものです。

袋路について
上京区 玉屋・山三小路
(共同建て替えの事例)
袋路の再生を考えるワークショップ

  袋路の良さを継承した新しい居住空間の形成に貢献する一方、資金や手続など、共同建て替え事業ならではの課題も明らかになり、今後の袋路再生の促進に向けたモデルにふさわしい事業として評価されています。

3.地域と共生するマンション建設

地域と共生する土地利用の検討会

  平成11年1月に、旧京都ガス本社跡地(中京区柳馬場三条上る)についての土地利用を考えるための検討会『地域共生の土地利用検討会』が発足しました。これは当該地権者の(株)アーバネックスが、地域の人に受け入れられる建物建設を目指し、地元との意見交換の仲介をセンターに依頼したことで実現しました。
  検討会は、地元町内会や地元市民活動グループ、学識経験者を交えて結成されました。
  白紙状態から土地利用を構築していったことから、検討会は17回の開催、2年という期間を要しました。
  検討会での取組の内容については、ニュースを発行し、多くの関係者へ情報提供しています。

ワークショップ
建物案模型

<地域共生の土地利用検討会の流れ>
○第一段階「土地利用の機能イメージをまとめる」(平成11年1~12月)
  まちのシステムの一部として、検討地にどのような機能を持たせるかをイメージしました。地域の人が参加するワークショップの開催により、まちの資源を見つけ出し、まちの人が望む「まちの将来像」を探りました。その「まちの将来像」から検討地に必要とされる機能を考え、様々な事例を参考としながら、基本的な施設機能の検討を行いました。
○第二段階「土地利用の具体化」(平成12年4~12月)
  第一段階の結果を踏まえ、計画の具体化を行いました。「建築計画の検討」と「交流施設の内容の検討」、「新しい人との交流・意識の共有」を三本柱とし、同時進行の形で検討を進めました。

4.地域と共生する一戸建住宅

「まちなみ住宅」設計コンペ

  (財)京都市景観・まちづくりセンターでは、都市居住推進研究会と共催で、地域住民と協働して、地域のまちなみとコミュニティに貢献する21世紀に相応しい住宅開発のあり方を考えることを目的に設計コンペを実施しました。
  審査の過程では、審査員や設計提案者が、地域の資源への認識を共有するためのまちなみウォッチングや、地域住民や住宅の取得を希望する市民なども参加する見学会や交流会も開催しました
  それらの取組を通して地域との相互理解を図った上で、地域住民等が参加する審査を公開して行いました。
  最優秀賞の提案はそのまま対象地で事業化され、地域に温かく見守られながら建設されました。

交流会
公開審査
完成した最優秀案

  コンペの経過、成果、意義、運営委員会による座談会の様子及び応募作品約100点を掲載した『「まちなみ住宅」設計コンペ提案作品集』を発行しています。本コンペの取組の全容を見渡せる内容になっています。

5.町家型共同住宅

町家型共同住宅

  京都の都心は、長い歴史と伝統に培われた生活文化を持っています。こうした生活文化を背景にした都心部では、地域社会に溶け込むことができない共同住宅などが建設され、しばしばトラブルを引き起こしてきました。
  どのようなまちにおいても、その地域の歴史・伝統・暮らし方を継承し、新しい都心居住の文化を継承していく器として、共同住宅をはじめとする建物建設を進めることが求められています。
  そこで、京町家の持つ優れた住まい方の知恵を生かしながら、地域のまちなみに調和し、伝統的な職住形態や地域コミュニティに配慮した京都らしい新しいタイプの共同住宅として考え出されたのが「町家型共同住宅」です。

上七軒のまちなみに溶け込む
共同住宅(北野 洛邑館)
まちと共生する共同住宅
門前町のたたずまいを感じさせる
共同住宅(柳小路)

  その設計指針を具体的に示す「新版 町家型共同住宅設計ガイドブック」が京都市から発行されています。京都において共同住宅を建設する際、市民をはじめ事業者や建築家、建設業者の方々に参考にしていただきたい設計や計画上のヒントを掲載しています。

<町家型共同住宅設計指針 12項目>
  1.まち街区システム-お町内や伝統的街区秩序との新しい関係づくり
   1-1 伝統的市街地の環境ストックに適応する
    ●在来からの街区環境秩序に沿うこと
    ●街区環境の問題解消に役立ち、あるいは改善に貢献すること
   1-2 在来からの地域社会になじみ、融合する
    ●計画段階から地域社会のメンバーとなる工夫を盛り込むこと
    ●地域社会に融合する開放的な仕組みをもつこと

  2.まち通りシステム-まちなみやまち通りのもつ空間秩序の継承と創造
  2-1 まちなみ景観の基本的な仕組みを継承する
    ●壁面線の連続性と陰影豊かなファザードをもつこと
    ●まちなみのもつスケール感になじむこと
  2-2 まち通りのにぎわいと安全性を確保する
    ●地上階における活動性を受け継ぐこと
    ●くるまと歩行者の共存を図ること

  3.まち建築システム-都市建築としての町家の知恵や作法の検証と再生
  3-1 まち建築システムの知恵を継承する
    ●自律的更新・修復システムを内臓すること
    ●自然な監視ができる防犯システムをつくること
  3-2 都市居住へのニーズや現代の環境要求に対応する
    ●住戸の多様性を使いこなせる仕組みを確保すること
    ●「環境」に対する配慮を盛り込むこと